Over Line~君と出会うために
 目の前に積まれた大小様々な封筒の類に、貴樹はまたしても滅入全て持っているわけで、今更送られてきたって困る。これほどまでに送りつけられたら、溜め息のひとつやふたつはつきたくなるというものだ。
 もちろん、心配していた抗議がひとつもなかったとは言わない。
 だが、聞いていたリスナーからの反応は概ね好意的なもので、ファンはファンで新しい一面が見られたといってこうしてプレゼント攻撃が始まり、それまでは東城貴樹という存在にさほど興味を持たなかった層がそれなりに増えたらしい。それは、ラジオに送られてくるメールの内容に顕著に現れていると聞いた。何故か、男性からの好意的なメールが圧倒的に増えたらしい。貴樹のオタク暴露は、新規ファンの獲得には大いに役立ったとでも言うべきか。
 喜べばいいのか、それとも。
 天宮はにやにやしながらそのプレゼントを眺めやり、次いで、貴樹へと視線を向けた。 
 この件が起きて以降、天宮はずっと笑い続けている気がしてならない。所詮他人事で面白がられているのだろう。
「で、貴樹はどうなのよ?」
「どうって、何が」
「俺の言った通りだろ。お前がアニオタだろうが何だろうが、お前の歌の魅力は変わらないって。もしかしたら、アニメのOPのタイアップとかも取れるかもしれんぞ」
「何か、自分の手柄みたいな顔をしないでくれる!?」
 そもそもの諸悪の根源は、この天宮のような気もしないでもない。言ったところで、のらりくらりとかわされてしまうだろうけれど。
 貴樹は溜め息を吐き出して机に突っ伏して、それから、時計を見た。午後六時半。そろそろ帰りたい。
「ねえ、帰っていい?」
 今日の予定は、明日から始まるツアーに関しての事務所での最終打ち合わせで、そのついでにこのプレゼントの山を見せられたのだ。打ち合わせはとっくに終わっているし、もう何もないのなら早く帰りたい。
 情けない声を上げた貴樹に、栗原は溜め息をつく。
「仕方ないわね。帰ってもいいけど、今日はちゃんと早く寝なさいよ。アニメとか見ないで」
「はぁい」
「明日からツアー初日なんだってこと、わかってる!?」
「わかってますよぅ」
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