Over Line~君と出会うために
 貴樹は何度となくインターフォンを押そうとして躊躇い、そのたびに指を引っ込める。そんなことを何回か繰り返しているうちに、通りがかった住人と思しき相手に見咎められそうになった。……よく考えてみれば、貴樹のような男が、一抱えもあるでっかい箱を抱えてアパートの廊下に立っていたりしたら、立派に不審者だ。
 その視線を振り切るように、慌てて指先を押し込んだ。
「……はい?」
 わずかな時間をおいて機械越しに聞こえた彩の応答に、どきりとする。心臓が跳ね上がって、口から飛び出してきそうなほどに緊張した。
「あ、あの……っ」
 頭の中ではちゃんといろいろ考えていたはずなのに、いざとなると思考がまっしろになってしまってただの不審者だ
「とっ、突然すみません! 東城です」
「……どうかしたの?」
「えっと、その、お話が! ありまして!」
 貴樹がつっかえながらも力んでそう言うと、いきなり相手は沈黙した。
 何か機嫌を損ねるような、まずいことでも言っただろうか、と、自分の発言を思い返して貴樹がうろたえていると、不意にドアが開いた。
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