Over Line~君と出会うために
(……どうしよう)
 彩は貴樹が置いていったケーキの箱を前に、固まっていた。
 いきなり、告白された。
 嬉しかったけれど、驚いた。そういう展開を期待したりしなかったと言えば、それは嘘になる。だが、こんな坂道を転がり落ちるかのような急展開など期待していない。何より、もう少しゆっくり進んでいけばいいのに、と思っていたことが全て吹っ飛んでしまった。大体、大輔に描いてもらったラフ画だって、まだ渡せていないというのに。
 あまりのことに、とぼけた返答をしてしまったことを思い出すと、何だか地の底まで埋まってしまいたくなる。
 彩は溜め息をつくと、目の前の箱を恨めしげに眺めた。
 明日は仕事が早いからこれで、と言って、貴樹はすぐに帰ってしまった。せっかくお茶を淹れたのに、ほとんど手付かずだ。持って来たケーキの箱は、開けられてもいない。開ける隙もなく、彼はあたふたと帰ってしまったからだ。
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