Over Line~君と出会うために
 滞在時間は一時間にも満たなかった。
 まるで、あの言葉だけを言いに来たかのようなその振る舞いに、尚更、どうしたらいいかわからない。
 しばらく仕事で忙しいと言い残していたから、彼としてはその前にというつもりだったのかもしれない、と思う。だけど、だからって、あれはないと言いたくなるのは我儘だろうか。何だかケーキを渡しに来たついでのような言い方にしか思えない。
 貴樹にとってはケーキこそがついでだったのだが、そんなことまでは彩には伝わらない。
 彩はしばらく考えていたが、思いついたように携帯を取り上げた。時間は遅めだが、どうせ、不規則な生活をしている相手だ。別にかまわないだろう。
 いつものように幼馴染の番号を呼び出すと、ワンコールで出た。よっぽど暇なのか。
「大輔、今、暇?」
「暇じゃないが逃亡したい」
「何それ」
「ちょっと煮詰まっていてなぁ……。で、何の用?」
「煮詰まってるなら、甘いものでも食べに来ない?」
「……ふうむ、彩もいろいろとあるんですな?」
 どうやら、大輔は面白がっているらしい。最初に話してしまったがゆえに、だろうか。彩が何かを話したいのを察して、からかうような口ぶりで先を促した。
「告白されたの」
「オタクにか」
「オタクって……」
「んじゃ、あすかたんは嫁男」
「それじゃもっとひどい」
「……オタクのくせにリア充か」
 大輔はひとしきりぶつぶつ言っていたが、すぐに行くと言って電話を切った。
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