Over Line~君と出会うために
 苦しい言い訳をしているな、と自分でも思いながら言葉を綴る。それを、彩が薄々ながらも疑っていることも、何となく気づいている。
 貴樹のついた苦し紛れの嘘が、どこまで通用しているのかなんて、考えるのも怖かった。彩の傍からいなくなる理由を、必死で正当化しようとない知恵を振り絞っているなんて、彩は考えていないのかもしれない。本当のことを知られたくないのは、ただの貴樹の我儘だからだ。
 彩は、どこまで気づいていて、どこまで知らないのだろう。
 そして、この嘘が全て知られてしまった時、彼女は、どんな反応を示すのだろう。
 時々、その可能性を考える。
 今の時間が幸せであればあるほど、それを失うことに怯えている自分がいる。どうしたらいいのかわからないままに、最初についてしまった嘘を取り繕うために更に嘘を重ねることは、心が痛い。自分の弱さと不甲斐なさに、情けなくなってくる。
 貴樹が、REAL MODEのメイン・ヴォーカルであること。ツアーともなれば(いや、それに限ったことでもないのだが)、空港や駅で追っかけを引き連れて歩く羽目になるような、そういう存在であるということ。
その事実を、彩は受け入れてくれるのだろうか。
 どれだけ考えても、答えは出てこなかった。
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