Over Line~君と出会うために
「いってーっ!!」
「……何やってんの……」
 落ち着きのない子供のような貴樹の態度に、彩は呆れた溜め息をついた。先日のことを気にしているのかいないのかもわからない貴樹に、自分が何に怒っていたのかということすら、どうでもよくなってしまったのだ。
 貴樹が何を隠しているのか、知りたいとは思う。けれど、その内容を知ったところで、何かが変わるとも思えなかったのだ。何を隠していようとも貴樹は貴樹で、何も変わらない。そんな気がした。
 そう思っている彩の前で、貴樹はあたふたとブランケットを畳み、ちょこんと居住まいを正して彩の前に正座した。所在なげに周囲を見回して、ベッドに寄りかかっていた黄色いくまのぬいぐるみを抱き寄せる。
 久しぶりに、よく眠った気がする。眠った時間は数時間程度だというのに、すっきりとした目覚めだった。身体の奥に残る疲労感は完全に消えてはいないが、それでも、ここ数日の目覚めに比べたら大違いだ。
「……ねえ」
「えっ」
「顔色、悪くない? 大丈夫なの?」
「あー、えっと……少し、仕事で疲れてて」
 そればかりは嘘のつきようがないから、正直に答えた。
「……腕」
「へっ」
「点滴でもした?」
 やばい、と思ってその跡を隠したが、既に遅かった。むき出しになった腕に貼られた小さな絆創膏に、彩はじっと視線を向けていたからだ。
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