ひだまりHoney
私は少し離れた所に落ちた紙を拾いあげると、それを大田原さんへ差し出し、二歩下がってから大きく首を振った。
「あの大田原さん、違うんです! 私、今朝電車の中で痴漢に遭って……その時、助けてくれた人……だと思うんですけど。ですよね?」
前半は大田原さんに、途中から紺野さんに顔を向け、私はもう一度問いかけた。
紙を拾い終え立ち上がった紺野さんが、こちらに向かって微かに微笑んだ。肯定の笑みだ。
「私、あの時ろくにお礼も言わなかったのに、またさっきも助けてもらって、本当に有り難うございます」
「別に良いよ。同じ会社で働く仲間なんだし。あの後、挫けて会社まで来られないかとも思ったけど、ちゃんと出勤できたようで、なによりです」