Secret Lover's Night 【完全版】
そうしてじゃれ合うこと数十分。息が上がってきた晴人が、カメラを置いて二人に声を掛ける。

「よし。もうええぞ」
「えー!」
「えー!」

終了の声に、千彩は不満げに頬を膨らせる。ふと隣を見ると、同じように頬を膨らせた恵介が居て。ぷっと噴き出すと、晴人の手がポンと頭に乗った。

「ご苦労さん」
「もういいの?」
「ありがとう、千彩」
「えへへっ。どういたしまして」

普段「ちぃ」と呼ばれるものだから、「千彩」と呼ばれるのが少しくすぐったい。そのまま髪を滑る晴人の手を取り、ピタリと頬に寄せて瞼を閉じた。

千彩は、晴人の手が好きだ。

頭を撫でてくれる手、髪を梳いてくれる手、背中をポンポンとしてくれる手。今はリングがはまっていて少し痛いけれど、それでも気持ち良くてうっとりとしてしまう。


「はるの手…好き」


ボソリ、と呟くように言葉にすると、親指の腹で頬がゆるりと撫でられた。

「着替えておいで」
「着替えるん?」
「ん?それがええんやったらそのままでもええで?」
「ちさ、これがいい」

その言葉に、晴人が目を丸くした。
いけなかっただろうか…と心配になるも、それはすぐに緩やかなカーブを描いて。それに安心し、千彩はにっこりと笑ってみせる。

「ケイ、お姫様はこれが気に入ったんやとよ。何か羽織るもん持って来てやって」
「おぉ!やっとオシャレしてくれる気になったかー、マイエンジェル!」
「マイエンジェル!はもうええから。ほら、けーちゃんに上着もろておいで」

そっと背を押され、千彩はふと気付く。

「これ、けーちゃんの?」
「ん?俺が買う言うても、どうせあいつが「俺が!」って言いよるで」
「そっか。けーちゃん…ごめんね?」

スカートを摘まんでしゅんと項垂れた千彩に、上着を選んでいた恵介がそれを片手に歩み寄った。

「どしたー?ちーちゃん」
「あのね、これけーちゃんのやって…はるが」
「おぉ。ええんやで、そんなこと気にせんでも」
「でも…」

あんなにいっぱいお洋服買ってもらったのに…と、千彩は申し訳なさで涙目になりがら訴える。

そんな千彩にレースのカーディガンを羽織らせ、恵介はゆっくりと腰を屈めて微笑んだ。

「ちーちゃん、俺の選んだ服好き?」
「うん、好き」
「ほんならな、俺の選んだ服着てくれる?そしたら俺、お金貰うより何倍も嬉しいわ」
「着るだけ?」
「おぉ。俺も嬉しいし、可愛く着てもらえる服も嬉しいし、可愛くなったちーちゃんを見て晴人も嬉しい!いいこといっぱいやろ?」
「はるも?」
「もちろんや」

はるが嬉しいならちさも嬉しい!

千彩の想いは、至極単純なものだった。
< 23 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop