黒猫のアリア
「さ、それでは心臓を頂戴しますかね」
モルペウスが歯車の方へ近づく。何やら色々な工具を懐から取り出して腕を伸ばすモルペウスを横目で見てから窓に近づくと、騒がしく時計塔に近づいてくる警備隊が見えた。
「モル、そろそろ来るわよ。急ぎましょう」
「ん、もうちょっと……っよし取れた!」
はーっと息を吐いたモルペウスが手に持っていたのは巨大な純金の鐘。両手で抱えるほどの大きさのその鐘は月日の流れのせいで薄汚れてはいたが、荘厳さをも感じさせる見事なものだった。
「へえ……綺麗ね」
「でしょ? ずっと狙ってたんだよね」
そう言いつつモルペウスはその鐘を手早く布で包み、私に持たせた。割れた窓から一度外に出たモルペウスはどうやら屋根の上にのぼり、すぐに戻ってきた。
「おいでコインちゃん。これで脱出するよ」
モルペウスに促され窓枠に上ると、信じがたい脱出方法が待っていた。
時計塔のてっぺんからロープが伸びている。さして頑丈そうにも見えないそのロープは眼下に広がるロンドンの街へ続いていた。そしてモルペウスが手に持っていたのは、そのロープに金具で繋がれた一本のロープ。下の方にひとつだけ小さなコブが作られている。ここに足を引っ掛けるのだろうか。
「これに……乗れ、と……?」
恐る恐るモルペウスを見やる。モルペウスはけろりとした調子で頷いた。