その指に触れて
「……ここで、キスする?」

「あたしがしたかったの」


あたしがにっと笑ってみせると、遥斗は「もう……」と呟いて手で口元を抑えてあたしから顔を背けた。


「今の遥斗、すごい可愛い」

「嬉しくない……」

「もう一回してもいい?」

「ダメ」


遥斗は帰りの支度を始めた。


「まさかメガネ同士でキスするとはね……」

「何、照れてんの?」

「万梨ちゃん、いつになくSっぽいよ」

「あんたがメガネ外せば問題なし」

「……なんで俺だけ?」

「じゃあ、やるか。メガネ外すと周り見えなくなるから羞恥も何もないでしょ。二人でメガネ外してラブホに」

「なんでそういう話になるの!?」


思わず振り向いた遥斗の顔は真っ赤に染まっていた。


……ますますあたしを煽るじゃん。


「やっぱもう一回」

「はい、もう帰るよ」


遥斗はあたしに鞄を持たせて、さっさと歩き始めた。


「……絶対またやってやる」


今日わかったこと。遥斗は逃げるのがうまい。


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