その指に触れて
「で、やってくれる? モデル」

「え~。でも、二時間くらいじっとしてなきゃならないんでしょ? 疲れるよ」

「そんなことないよ。集中してれば二時間なんてあっという間だよ」

「それ、あんたの話でしょ」

「モデルさんもね、集中して一点だけを見つめてるとけっこう苦にならないもんだよ」

「それほどの集中力はないもんで」


あたし、短時間集中型だし。


「ねえ万梨ちゃん、ほんと頼むよ~。万梨ちゃんはほんといいモデルになると思うんだ。メガネかけてるし、顔のパーツの並びがいいし、細身だし」


なんか、すごく褒められてる気分。


メガネかけてるしって、それは余計だけど。


「……奢ってね」

「は?」

「暑いから、毎日ジュース奢ってね」

「いいの!?」

「あたし以外いないんでしょ? だったら、あたしがやるしかないじゃん」

「やった! ありがとう、万梨ちゃん!!」


山田くんがあたしの手を握ってぶんぶんと振った。


だから暑いってば。手握らないでってば。


そう言いたかったけど、山田くんの満面の笑みを見たら、なんだか言い出せなかった。


< 43 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop