その指に触れて
4.モデル×欲情
次の日から遥斗のモデルが始まった。


決められたポーズ……と言っても椅子に座っているだけだけど、動いてはいけないからこれが意外にキツい。


「万梨ちゃん、顎引いて。……視線はもうちょい下」


絵に集中している時の遥斗の声はいつもより低い。


男らしいじゃんって思う。


キャンバスに黒い棒──木炭だと遥斗は教えてくれた──を走らせる音だけが教室の中に響く。


すごく見つめられている感じがする……視線って言うべきかな。


たまにチラッと盗み見をすると「万梨ちゃん、視線ずらさないで」と怒られる。


でもあたしは遥斗の横顔が見れただけでも十分なのだ。


メガネ外したらどうなんだろ。メガネかけてるときと外してるときの写メ撮って見比べてみる?


うわ、それ超贅沢。


いつでも遥斗の顔が見れるじゃん。


にやけそうな口元を必死で押さえながら妄想をしていたら、いつの間にか顔が上を向いていたらしい。


「万梨ちゃん、顎出てる」


なんて、さっきの調子で言われてしまった。


モデルさんのことは何でもお見通しなのね。


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