その指に触れて
「返事はしないでね」

「へっ?」


あたしは鞄を持って遥斗を見下ろした。


「好きだからってあんたと付き合いたいとか思えないし」

「そういう告白、あり?」

「むしろ、返事されても困る」

「あ、そこ無視なんだ……」

「あんたとそういう関係になりたいとも思わない」


なんたって草食系だし。


こいつ、見た目だけじゃなくて、中身も草食系じゃない?


根っからの草食系男子ってことか。


「それ、はっきり言われんのもキツいよ……」

「何?」

「あ、いや、何でも……。あ、万梨ちゃん、明日からモデルよろしくね。放課後ここに来て」

「毎日購買で200円のタピオカミルクティー奢りだからね」

「えっ、あの一番高いやつ!?」

「よろしく~」


後ろ手でひらひらと遥斗に手を振って美術室を後にする。


振り返らないからわからない。でも遥斗ががっくりと項垂れているのを想像したら笑えてきた。


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