その指に触れて
「万梨ちゃんも出て。今日はもうここの鍵閉めるから」


遥斗が座ったままのあたしに鞄を持たせる。


「……うん」


まだ遥斗と一緒にいたかったな……というのはあたしのわがまま。


これ以上遥斗に迷惑をかけるわけにもいかない。


「……遥斗」

「んー?」


美術室に鍵をかける遥斗に声をかける。


「また、明日からも来ていい?」


鍵を閉め終えた遥斗が振り向いてあたしを見る。


「あたし、放課後暇だから……」


これじゃあ会いたいから来てもいいですかと言ってるようなものだ。


言い訳下手くそだなあ。


今まではモデルとして遥斗の傍にいられたけど、これからはもあうそんな都合のいい理由などない。


また迷惑をかけるだろう。でも、傍にいたい。


遥斗は優しい。でも……。


「あ、嫌だったら言って。忙しかったら邪魔したくないし、別に無理にとは……」

「万梨ちゃん」


遥斗が屈んであたしの顔を覗き込む。


「そういうこと言われたら、嫌でもやだって言えないんだよ」

「……はい」


わかってる。


断られるのが怖いから先手を打った。


あたしは卑怯なのだ。


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