この恋、極秘恋愛につき社内持ち込み禁止
アポは思ったより早く終わった。でも、会社に戻りたくなかったからカフェで時間を潰し、終業時間が過ぎた頃に帰って来た。
オフィスには数人の男性社員が残ってるだけ。私は課長に交通費の清算用紙を提出して帰ろうとしんだけど、課長が難しい顔をして言う。
「沢村部長が神埼さんが帰ったら部長室に来るようにって言ってたよ。なんか、凄く機嫌が悪くてね。30分おきに"神埼はまだか?"って催促の内線があって参ったよ」
「えっ……」
「ほらほら、早く行きなさい。神埼さんが行かないと僕が部長にドヤされる」
「はあ……」
課長がジッと見てるから帰ることができず、渋々、部長室の前に立つ。
あぁ~課長がこっちを睨んでる。もう、なんでこうなるの? 会いたくないから遅く帰って来たのに……直帰すれば良かった。
どうせ、話しの内容はあのこと。結婚のことだ。
観念してドアをノックしようとした時、部屋の中から銀の声がした。
誰かと電話で話してる?
薄いパネルで仕切られた部長室からは、銀の声はダダ漏れだ。
「……あぁ、分かってる。だから今日、帰って来たんだろ?」
仕事の電話じゃなさそう。
「ちゃんと覚えてるさ。明日の朝9時にハイアットホテル……」
明日の結納のことだ。電話の相手は怜香さん?
「んっ? 俺? 俺はスーツでいいんだろ? 怜香は着物の方がいいいんじゃねぇか? 精々おめかししてこいよ」
銀の嬉しそうな声に胸が締め付けられる。
「……銀」
もう、そう呼んじゃいけないのかもね。これからは、上司と部下。"沢村部長"って呼ばなきゃね。それとも"鳳来部長"になるのかな……
ねぇ、最後に私の我がままきいて? 今私、銀の顔見れないよ。だって、今銀の顔見たら泣いちゃいそうで……
だから"さよなら"は、ここで言わせて……お願い。
銀、今まで有難う。私は大丈夫だから……私には、銀に授けてもらった華が居る。お父さんの横田さんだって居る。それだけで、十分幸せだから……銀も怜香さんと幸せになってね。
絶対だよ。銀が幸せになってくれなきゃ、私が銀を諦めたことが無駄になる。
だから、絶対に幸せになってね。
銀……
「さようなら……」