俺様編集者に翻弄されています！
「悠里？」


　思いつめた表情をしていた悠里を訝しげに思ったのか、加奈が心配そうに顔を覗きこんできた。


「あ、あぁ……じゃあ今度お祝いしなきゃね！　なんだ、言ってくれれば良かったのに」

　悠里はわざと明るい声を出した。こんな醜い胸の内を知ったら、きっと加奈に絶交されてしまうだろう。そう思うと、邪心を捨てて気持ちを綺麗に切り替えた。


「ごめんね、なんかバタバタしちゃっててさ、それでね……」


　加奈が鞄の中からクリアファイルを取り出していくつか書類を机の上に広げた。


「早速なんだけど、私の後任の担当さん……えーっと履歴書どれだったかなぁ」


　後任―――。

その言葉に、もう加奈とは一緒に仕事ができないという現実をつきつけられ、同時に一抹の寂しさが悠里を呆然とさせた。

そんな気持ちを誤魔化すように悠里はひたすらコーヒーを啜るが、気持ちが物憂い感じに囚われてしまう。


「あ、あった！　この人」


　加奈に手渡されたA3サイズを二つ折にした一枚の履歴書。

（ご丁寧に顔写真まで貼ってある……ん？）

　その写真を見た瞬間、悠里の目が写真からでもありありとわかる端整な顔立ちに釘づけになった。

「イケメン!!」

　先ほどまでのアンニュイな気持ちが一気に吹き飛ぶような証明写真に、悠里は思わず履歴書を手にしながらわなわな手を震わせた。



「ふふ、素敵な人でしょ？　なぁんでこんなしがない出版社に転勤になったんだか未だに謎だよ。来週帰国するって話しだよ」


　鼓膜の奥で加奈のつぶやきを聞きながら、悠里の妄想スイッチが入る―――。

< 12 / 340 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop