俺様編集者に翻弄されています!
 氷室が初めて「愛憎の果て」に出会ったのはちょうど二年前だった。


 たまたま東京に出張していて、ふと立ち寄った駅ビルの書店の平台に山積みされている「愛憎の果て」を何気なく手にとったのがきっかけだった。

 パラパラと流し読み程度のつもりだったが、購入して気がついたらその日のうちに読破してしまった。


 久しぶりに面白い小説に出会った―――。

 というのが氷室の正直な感想だった。昨今はどれも似たような内容で、つまらない小説に飽き飽きしていた氷室は、久しぶりに高揚した気持ちになった。


 そして数年後、まさが自分がその作家の編集者担当を任されるとは想像もしていなかった。


 編集者がいくら作家のために尽くしても、映画のエンドロールのように自分の名前が表に出ることはない。けれど、切磋琢磨しつつ小説家をもっと表に出せるのは自分しかいない。

 この土まみれの原石を自分が磨き上げてやる―――。
 
 と、そう思っていた。
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