俺様編集者に翻弄されています!
 その時、口の中に小さな何かを押し込まれた。

(これって……氷室さんの飴……)


 そう気づくのにそう時間はかからなかった。


「口直しにな」


 舌の上で甘酸っぱい飴の味が広がっていく―――。

 正体のわからない、いつもの味―――。

 そんな不思議な飴が、氷室の陰と重なって見える。


(氷室さん……)


 氷室を置いて、タクシーがその場を後にする。


 甘く、やんわりとした夢心地の中で、後ろを振り向くと、エントランスにはもう誰もいなかった。すると、悠里は胸を締め付けられるような切ない気持ちになった。



(これって、恋の味……なのかな?)



 宝石箱のような夜景をぼんやり眺めながら、悠里はその甘い味に酔いしれた―――。
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