俺様編集者に翻弄されています!
「っ……」


 昨夜は若干まだ酔いが残っていたせいか、考えたくても頭が働かなかった。けれど、昨夜起きたことが今、鮮明に思い出されて、悠里は羞恥でおかしくなりそうだった。


(そうだ、私……氷室さんと、キ、キス……した)


 キスくらいでドキドキしていること自体恥ずかしかったが、意外にも氷室の唇が柔らかくて、その温かな感触に早まる鼓動を抑えられなかった。


「あ……」


 なんとなく目元が腫れぼったい感じがして触れてみると涙の乾いたあとがあった。


 すると、じわじわと昨夜の氷室の言葉と悲痛な面持ちが脳裏に甦った。


(そうか、だから自分は泣いていたのか……浮かれてる場合じゃなかった)


 思い出す現実はけして甘いものでなく切ないものだった。
 


 その時、悠里が身を起こすと何かがずり落ちた。
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