俺様編集者に翻弄されています!
 その時、ふと氷室に口づけされた夜を思い出した。

 忘れもしないあのキスの味がラズベリーと重なる。


「……き……ない」


「え?」


「やっぱり私! 氷室さんを諦めるなんてできない!」


 悠里はまるで牛乳を飲み干すかのように腰に手を当てて、一気にグラスの中のカクテルをグビグビ呷った。


「私、決めた! すみません、今夜はもう帰ります。今自分がやらなきゃいけないことがわかったんです!」


「え? ええ、そう、気をつけてね」


「はい!」


 悠里はカウンターにグラスをタンッと音を立てて置くと、気圧されるように固まっているナオママにペコリと頭を下げて店を後にした。



「愛の力って尊いわねぇ……」


 ナオママはうっとりしながらカウンターに頬杖を付いた。


「ねぇ、氷室さんがこの前ここに来た時のことこっそり教えてあげればよかったんじゃない?」


 恰幅のいいポニーテールの店員が皿を拭きながらナオママに言った。


「あんた馬鹿ねぇ、男女の色恋に他人が口出しするなんて野暮ってもんよ、でもきっとあの二人うまくいくんじゃないかって思うの……あぁぁん! 私も身を焦がすような恋がしたいわぁぁぁぁ!」

 ナオママはそう雄叫びをあげるとカウンターに突っ伏した。
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