俺様編集者に翻弄されています!
「ええっ!? 今、それで空港にいるの?」


 悠里はパスポートを取りに一度家に帰り、気がつくと成田空港でナオママに電話をかけていた。悠里は自分こんな行動力があったのかと改めて知った。


「はい、なんか……我ながら無謀というか……チケットもすんなり取れたんで不思議なくらいです」


「それはきっと恋の神様が味方してくれてるのね……ふふ」


 ナオママの温和な口調に悠里の気持ちも次第に落ち着きを取り戻した。


「それより、あなた英語喋れるの?」


「え……?」


 無我夢中だったとはいえ、何か肝心なことを忘れている気がしたのは気のせいではなかった。


「えーっと、英語……喋れません」


「……はぁ」


 電話の向こうでナオママのため息が聞こえた。


「んもう! 勢いでなんでも許されるのは若いうちだけよ? 心配だわぁ、まず向こうの空港に着いたらねタクシー捕まえて、それから―――」


「あぁ、待ってください!」


 悠里はバッグの中からメモを取り出して、段取りをメモし始めた。


 必要最低限の英語のフレーズだけナオママから教えてもらうと、根拠はないがなんとかなるだろうという気持ちになってきた。こういう時、楽観的な性格でよかったと思ってしまう。



「きっと、今のあなた輝いてるわよ。恋する女って感じでね……まぁ、私はあなたが一人で店に来た時に気づいちゃったけど」

「そ、そうだったんですか……」

(あんなに氷室さんのことを想って泣けば、気づかないわけないよね……)


 思い出すだけでも恥ずかしさがこみ上げてしまい思わず携帯を握りしめた。



「私、絶対氷室さんと一緒に帰ってきます」


「ええ、信じてるわ。じゃあね」


「はい」


 そうは言ったものの、通話を切ると急に孤独感が押し寄せて来た。


 もし、ニューヨークまで行って見つからなかったら? 避けられてしまったら?   

 そんな怒涛のような不安に押しつぶされそうになった。



(きっと大丈夫だから……)


 そう自分に言い聞かせると同時に、ボーディング開始のアナウンスが聞こえて悠里は勇んで立ち上がった―――。



 成田からニューヨークまで直行便で約十三時間。

 日本とは十四時間ほどの時差がある。


 悠里は飛行機の中、窓の外をぼんやり眺めていた。

 絨毯のように白い雲がどこまでも広がっている。

 悠里は今こうして本当にニューヨークへ向かっていることが、未だに信じられなかった。

 ぼんやり景色を眺めながら、ふと頭の中にモヤがかかる―――。



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