俺様編集者に翻弄されています!
 プロットを破り捨てられて、失意のどん底に突き落とされたかと思えば、今度は連れて行きたいところがあると笑顔で言われ、氷室という男がだんだん理解不能になってきた。


「じゃ、わかったらもう帰れ、俺はこれから会議に行く」



「は、はい……失礼します」


「口……開けな」


「……は?」


 いいからつべこべ言わず口を開けろ、と催促するように氷室が顎でしゃくる。


 悠里は訳が分からずとりあえず言われた通りにおずおずと口を開けると、ころんと何か放り込まれた。


「っ!?」


 甘くてほのかに酸っぱい味が口に広がって、ようやくそれが飴だということに気づいた。



「お前……面白い顔してんな」


「もう!いきなり何するんですか! それに、人の顔見て面白いなんて―――」


「別に、俺は正直者だからな」


 悠里はふてぶてしくにやりと笑う氷室を上目遣いで睨んだ。

「失礼します!」

 無言で飴玉を口の中で転がしながら悠里はミーティングルームを後にした。





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