俺様編集者に翻弄されています!
(け、化粧……?)

 柔らかな天井灯の光に照らされて、鏡の前の味気ないずっぴんと目が合った。おかげで先程店員から施された化粧は綺麗さっぱり落とされてしまい、地味な顔が氷室に晒されている。

 氷室の行動が全く理解できず、その原因が化粧だということに悠里は目が点になってしまった。

(嫌だ……こんな顔、見られたくない)

 普段はすっぴんで出歩くのも気にならないはずだったが、氷室に素顔を見られていると思うと、悠里は無性に居心地の悪さを感じた。 



「ブサイクが背伸びするとロクなことないって知ってるか?」


「うぅ……ブサイクってまた言いましたね?」


(意地悪! 意地悪! 氷室さんの意地悪!)

 悠里が俯いて頬を膨らませていると、氷室は悠里の頬を軽くつねるようにしてから小さく笑った。


「化粧なんかすんな、わかったな?」

「いだだだ……わ、わはりまひた」

(そんな笑顔で言うなんて、ズルい!)



 女の人は洒落っ気があって、化粧もバッチリ決まっているほうがいいに決まっている。

 それなのに、氷室はどうして化粧をするなと言ったのか、悠里には理解できなかった。


「ほら、行くぞ」


 悠里は氷室の後を追って、六本木の雑踏へ向かっていった―――。


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