俺様編集者に翻弄されています!
「……ようやく火が付いたな」


「……え?」


 悠里に呼び止められて、目を丸くした氷室の表情がすぐに柔らかいものに変わると、目を細めて笑った。


「タクシー拾ってやるからそのまま帰れ、思い浮かんだその感覚のまま。いいか余計なこと考えるなよ?」


「はい!」


 浮かんできたことをメモにすることもある。けれど、悠里はひらめきの波に今すぐ乗りたかった。



 氷室は路上の流しのタクシーをさりげない仕草で拾うと悠里を中に押し込んだ。

「あの、できたら月曜日に氷室さんのところに持っていきます」


「普通は編集者が作家の家に原稿取りに行くけどな、まぁ郵送でも―――」


「持っていきます!」


「わ、わかったよ……じゃあ、月曜日の午前中に持って来いよ」 


 運転手に一万円を渡して氷室はドアを閉めた。タクシーが動き出す前に悠里は慌ててウィンドウを開け、身を乗り出して言った。
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