俺様編集者に翻弄されています!
「あ、あの! 今日はありがとうございました! 私、絶対―――んっ!?」


「いいからそれ以上喋るな、アイディアが飛ぶだろ」


 悠里の言葉を堰止めるように氷室が口の中に何か押し込んだ。

(これは……あの時の飴?)


 氷室に原稿を破かれた時にも口の中に飴を放り込まれた。それと同じものだと気づいた時には、もう車は走り出していた。


 甘くてほのかに酸っぱい味、知っているようで思い出せなかった。それが歯がゆくて、その飴のことを考えると、自然に氷室のことまで考えてしまう。

 飴が悠里の舌の上で転がり、小さくなって消えても結局悠里は思い出すことができなかった―――。
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