サラリーマン太郎の勇者日記
 ところが、我々が出かけて行った後、宰相は反乱を起こそうと、前々から企てていた計画を実行していた。
 テオドリクスがぼろぼろになりつつあった城内に戻り、ランゴバルドの名を呼ぶと、ランゴバルドは王を軽視した発言を、本人に向ける。
「ランゴバルド? おぬし、気でも触れたのか」
「笑止」
 宰相はクロノを味方につけていたのだ。
 王は宙に浮かぶその少年を恐ろしげにただ、見据えるだけだった。
「そ、その子供は!?」
「ヘルギ王子らが血相変えて捜していた、悪魔の子だよ。テオドリクス」
 なんとランゴバルドは、テオドリクスを呼び捨てにした。
 あの、フランスの伯爵ミラボーがかつて、ルイ十六世を蔑んで「ルイ」と呼んだように・・・・・・。
「気が触れたのではない。王よ、よく聞け。わしはお前に忠誠など、これぽちも誓っちゃいなかったのだよ。わはははは!」
「く、狂っている・・・・・・貴様は狂っている。ランゴバルド! 余は、余は、お前を信じていたのに。だからこそすべてをあずけていたのに!」
 ランゴバルドは王にためらいもせず、剣を逆向きにかまえ、振り下ろそうとした。
「さようなら。王よ」
 テオドリクスは観念し、瞼を閉じた。  
 
 
 
 これらはロゼッタから聞いた話だが、おそらくランゴバルドは、兄のごとくクロノに命を売ったのだ。
 現代人は悪魔など信じない。したがって、悪魔に命を捧げるようなことはしないだろうが、古代や中世では、ごくありきたりだったそうだ。
 兄がいつも西洋の昔話を読んでは、私に言っていた。
 まったく、ばかばかしいとしか言い様がなかった。
 私にとってはくだらないことだったのだ。
 悪魔や神に願い事をかなえてもらったところで、その後に努力を忘れてしまっては、いつか得た富は失せるだろう。
 なぜなら、得た財産の使い道がわからないからだ。
 苦労を積み重ねて得た富ならば、それまでの経験を生かすだろうから、失うこともない。
 私は、だからこそ、そんな迷信じみたアホらしい存在は、信じなかった。
 しかし兄は迷信とも思える神を心底信じてしまっていた。
 それがなぜ、悪魔信仰に切り替わったのか・・・・・・きっと、事故に遭う前、何かあったのだろう。
 

 
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