月宮天子―がっくうてんし―
  ***


「では……知り合いなのかね?」

「はぁ……」

「知りません!」


もの凄く大柄な男につけられた気がしたのだが、実際は一八〇センチもなかった。体型も貧弱とは言い難いが、筋肉男でもない。いわゆる中肉中背のドコにでもいるタイプだ。

前髪がちょっと長めで、クセのないストレートな黒髪は結構ポイントが高い。付け加えるなら、二重瞼の優しげな目も、高すぎない鼻も、男の割に口紅が塗りやすそうな唇も悪くないかも……とふと気付けば、愛子はまじまじとその男を注視していた。


「ですから、西園教授に東京の自宅に住めばいいと言われて。僕は写真で愛子さんの顔を拝見していたので……そうしたら凄い勢いで走ってるから何かあったのかと」

「あなたが追いかけるからでしょ? 小学校の向こうの松竹(まつたけ)神社くらいからずっと! すっごく怖かったんだからね」 

「追いかけたのかね?」


警官の数は四人に増えている。

綾辺警察署からふたり、近くの交番からひとり駆けつけてきたからだ。全員が胡散臭そうに男を睨みつける。

男の後ろに立つ警官は警棒を手に、もし暴れ出したらすぐにでも押さえ込める位置取りであった。


「マツタケ? あの大きな神社ですか? 小学校が近くにあるんですか?」

「何、すっ呆けてんのよ!」


愛子は男の胸倉を掴み、怒鳴りつけていた。


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