月宮天子―がっくうてんし―
咄嗟の言い訳にしたらあまりに唐突だろう。
警官を差し置き、愛子が尋ねていた。
「はあ。瀬戸内の海を小船に乗せられて漂ってたんです。で、地元の漁師さんが拾ってくださって。真冬だったし、生後一週間くらいで多分もたないだろう、と……その、埋葬に名前がいるそうなんで簡単に付けられたらしいです。まさか生き延びるとは、付けた方もビックリですよねぇ」
あははは……と、その男、瀬戸内海(せとうちかい)は笑った。
定年間近を思わせる警官のひとりは、海の差し出した免許証の本籍地が海上になっていることに気付く。そして、二十三年前の新聞記事を思い出し、声を詰まらせたのだった。
「君は、あの『死のゴンドラ』の赤ちゃんなのか……大きくなったものだ」
「佐々木警部、ご存知なのですか?」
「当時のマスコミは、コインロッカーより悪質だと叩いていたよ。警察も、保護責任者遺棄ではなく、殺人未遂で捜査したはずだが……親は見つからずじまいだった。もし、のうのうと生きとるなら許せんよ!」
その場はシーンとなる。
結局、彼の本籍がある岡山県に確認して身元は証明される。その途端、警官らは皆好意的になり……。
「悪質な事件が続いとるんだ、こんな場所を、しかも日が暮れてから通るのが危険なことくらい、高校生ならわかるだろう?」
と、愛子のほうが教育的指導を受ける羽目になったのであった。
警官を差し置き、愛子が尋ねていた。
「はあ。瀬戸内の海を小船に乗せられて漂ってたんです。で、地元の漁師さんが拾ってくださって。真冬だったし、生後一週間くらいで多分もたないだろう、と……その、埋葬に名前がいるそうなんで簡単に付けられたらしいです。まさか生き延びるとは、付けた方もビックリですよねぇ」
あははは……と、その男、瀬戸内海(せとうちかい)は笑った。
定年間近を思わせる警官のひとりは、海の差し出した免許証の本籍地が海上になっていることに気付く。そして、二十三年前の新聞記事を思い出し、声を詰まらせたのだった。
「君は、あの『死のゴンドラ』の赤ちゃんなのか……大きくなったものだ」
「佐々木警部、ご存知なのですか?」
「当時のマスコミは、コインロッカーより悪質だと叩いていたよ。警察も、保護責任者遺棄ではなく、殺人未遂で捜査したはずだが……親は見つからずじまいだった。もし、のうのうと生きとるなら許せんよ!」
その場はシーンとなる。
結局、彼の本籍がある岡山県に確認して身元は証明される。その途端、警官らは皆好意的になり……。
「悪質な事件が続いとるんだ、こんな場所を、しかも日が暮れてから通るのが危険なことくらい、高校生ならわかるだろう?」
と、愛子のほうが教育的指導を受ける羽目になったのであった。