月宮天子―がっくうてんし―
  ***


「もう最悪」


保護者に連絡して迎えに来てもらおうと言う警官に、すぐ近くだから大丈夫です、と愛子は押し切ろうとした。

そこに、海が少林寺拳法全日本学生大会の優勝経験者と知るや「ああ、ちょうどいいボディガードだ」となり……。

結果、彼が保護者として書類にサインし、一緒に返されてしまったのだった。


「でも、お母さんに連絡をして欲しくなかったんだろう?」


図星を指され、愛子は返答に窮する。 

このとき、ふたりは安全のため千並街道を自宅に向かっていた。だが、夜は工事をしていて通り難い。

結局、途中からまた北に折れ、その正面に、再び小学校の塀が見えたのだった。


「ねぇ、本当に、あなたじゃなかったの?」

「もっと早くに見つけてたら、さっさと声を掛けたと思うよ」


では、この辺りに出没する痴漢だろうか? それとも、猟奇殺人犯? 思い出すだけで愛子は身震いした。

海はそれに気付いたようで、愛子の顔を覗き込み、心底心配そうな声で尋ねる。


「大丈夫かい? まだ遠いのかな?」


愛子はさっきの警官の話をふと思い出し、


「ね、あなた強いのよね? なんたって優勝だもん。少林寺をやる大学生で一番強いんでしょ?」

「段外……だけど、ね」

「だんがい?」


初めて聞く言葉に愛子は首を捻る。


「大学から始めたから、段を持ってないんだ。で、段外。それに単独演武だし」


愛子はだんだん不安になって来る。


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