月宮天子―がっくうてんし―
「ねぇ、わかりやすく言ってよ。強いの? 弱いの? 今、痴漢とか変質者とかに襲われたら、やっつける自信ある?」
「戦ったことがないからね、わからないよ。喧嘩なんてしたことないし、人を殴ったことなんかないなぁ」
愛子は開いた口が塞がらない。父はなんのためにこの男を寄越したのだろう?
そんな風に思えば、見れば見るほどムカついて来る。
海は百円ショップで売ってそうな無地のTシャツを着て、九八〇円くらいのジーンズを穿いていた。しかも、膝の辺りが擦り切れていて、おしゃれというよりただただ貧乏くさい。
おまけに持っているボストンバッグはアチコチ破れていて……昼間だったら絶対に並んで歩きたくないスタイルの男だ。
「ついて来ないで!」
「え? あの」
「そうよ。明日来る予定だったんでしょ? 迷惑なの。明日にしてよ。いいわね!」
「イヤ、でも……」
しつこく食い下がる。「男だったら野宿くらいしなさいよ!」と、愛子が叫ぼうとしたとき、
「家まで送るよ、心配だから。もし君になんかあったら、俺は教授に申し開きができないし」
愛子はビックリした。
そんな風に言われるとは思ってもみなかったからだ。だが、ここでいきなり素直になれるはずもない。
「結構です。もう、あとちょっとですから。それより、自分の泊まる所を心配したほうがいいんじゃないですか?」
そう言いながら、愛子は自分でも意地が悪いと思った。
「いや、俺はどこでも寝られるから。丈夫なだけがとりえだし。心配してくれてありがとう」
(心配なんかじゃないのに……馬鹿なんじゃないの?)
海は屈託のない笑顔で返してきて、それが愛子には妙に眩しい。
「そう……じゃ。あの角、北案寺のほうに曲がったらすぐだから」
愛子は海に背を向け、そのまま一度も振り向かずに、走り去った。
「戦ったことがないからね、わからないよ。喧嘩なんてしたことないし、人を殴ったことなんかないなぁ」
愛子は開いた口が塞がらない。父はなんのためにこの男を寄越したのだろう?
そんな風に思えば、見れば見るほどムカついて来る。
海は百円ショップで売ってそうな無地のTシャツを着て、九八〇円くらいのジーンズを穿いていた。しかも、膝の辺りが擦り切れていて、おしゃれというよりただただ貧乏くさい。
おまけに持っているボストンバッグはアチコチ破れていて……昼間だったら絶対に並んで歩きたくないスタイルの男だ。
「ついて来ないで!」
「え? あの」
「そうよ。明日来る予定だったんでしょ? 迷惑なの。明日にしてよ。いいわね!」
「イヤ、でも……」
しつこく食い下がる。「男だったら野宿くらいしなさいよ!」と、愛子が叫ぼうとしたとき、
「家まで送るよ、心配だから。もし君になんかあったら、俺は教授に申し開きができないし」
愛子はビックリした。
そんな風に言われるとは思ってもみなかったからだ。だが、ここでいきなり素直になれるはずもない。
「結構です。もう、あとちょっとですから。それより、自分の泊まる所を心配したほうがいいんじゃないですか?」
そう言いながら、愛子は自分でも意地が悪いと思った。
「いや、俺はどこでも寝られるから。丈夫なだけがとりえだし。心配してくれてありがとう」
(心配なんかじゃないのに……馬鹿なんじゃないの?)
海は屈託のない笑顔で返してきて、それが愛子には妙に眩しい。
「そう……じゃ。あの角、北案寺のほうに曲がったらすぐだから」
愛子は海に背を向け、そのまま一度も振り向かずに、走り去った。