月宮天子―がっくうてんし―
猟奇殺人事件は、まだあちらこちらで起っている。だがこの一週間、愛子らは遭遇してなかった。

そして、あの少年虎・流火の口にした『翠玉』だ。


海の話によると『翠玉』はなんと海の心臓に嵌まっていると言うのだ。

触れたと思った瞬間、体内に吸い込まれ、腕を伝って心臓まで転がって行ったのだ、と。玉が心臓にカチリとはまって、気がついたら緑色の化け物に変身していたらしい。


「病院に行ったほうがいいって言うんだけど……平気だって聞かないんです」


愛子はブスッとふて腐れた顔で言った。

本気で心配しているのにわかってくれないのが悔しい。


「大丈夫ですよ。痛くも苦しくもないし……なんかよくわかりませんが、出てくる気になったら出てくるんじゃないかと」

「便秘じゃないんだからねっ!」

「わ、わかってるって」


ふたりのやり取りに苦笑する警部だったが、急に頬を引き締める。


「私は、ご覧のとおりのおいぼれだ。あまり役に立たんかもしれんが……警察には多少の顔も利く。有休を使いきるまでは身分は警官のままだ。困ったことがあったらなんでも相談するんだぞ。――トクに君」


警部は自由になる右手で海を指差した。


「君は多分……ヒーローなんだ!」

「は?」


愛子と海は同時に声を上げる。

だが、そんなことお構いなしに、警部は伸ばした右手で海の手をガシッと掴み、力強く宣言した。


「月光なんとか、や、スーパーなんとかみたいな、特別な力を持ったヒーローなんだよ。有働を化け物に変えた赤い玉はどこに行ったかわからんが。きっと、あの玉を拾って真っ赤なヒーローになる奴もいるはずだ。そうなれば、君はなんとか戦隊の一員なのかもしれん! 頑張って、あの化け物と戦うんだ! 日本、いや、地球の未来は君に掛かっとるんだからな!」


若いふたりは、佐々木警部に精一杯の笑顔で応えるのだった。


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