部長とあたしの10日間
土曜 11:00
「次はこれを頼む」


無遠慮な声が頭上から降り注ぐと同時に、デスクにまた書類が積み上がる。
あたしは小泉部長を振り返ると、恨めしそうに睨んだ。


昨日ようやく思いを伝えたからと言って、あたしと部長の間に甘いムードが漂うわけないのは分かってた。
分かってたけど。


朝から浮かれて会社に赴いたあたしを待っていたのは書類の束。
部長と交わした会話はほんの少しの事務的な指示だけで、次から次へと仕事が舞い込んでくる。
こんな仕打ちあんまりだ。


「…これもですか」


あたしが不機嫌そうに聞き返すと、部長はびっくりした顔をする。


何よ。
俺のこと好きだって言ったくせに頼みも聞けないのか、って顔しないでよ。


「…分かりました」


いいわ、やってやろうじゃない。
あたしは腕捲りをして書類の山に立ち向かう。


あたしに課せられた指令は走り書きのままだった企画の清書と簡単なエクセル操作。
経理部の単調な業務で鍛えられたせいか、打ち込み作業は苦にはならない。


早いとこ終わらせて部長をランチに連れ出してやる。
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