部長とあたしの10日間
部長と二人きりのオフィスに、パソコンを叩く音だけが響き続ける。


手元のルーズリーフには、細身で角張った、右上がりの文字が並んでいる。


初めは読むのに手こずったけれど、神経質そうなそのクセ字で綴られたたくさんの殴り書きをトレースすると、謎だらけの部長の頭の中を少しだけ覗けたような気がしてくる。


ふと誤字を発見したあたしが、これを指摘したらどんな顔をするんだろう、なんてあの完璧ぶった男の弱味を握った気になってほくそ笑んでいると。


「随分楽しそうだな」


突然声をかけられて飛び上がりそうになる。
急に人の背後に立たないでよね。


「そんなに雑用が好きなら、これからもお前に振ってやろうか。」


本気とも冗談ともつかない顔で言う部長に、あたしは慌てて首を振る。


「結構です」


くくっ、と笑いを堪える部長の手に、レジ袋が握られてることに気付いた。
部長みたいな澄ましたヤツもコンビニに行くんだ、なんて見当違いなことを考えていると。
あたしの視線に気付いたのか、部長はレジ袋から取り出したものをあたしのデスクの上に並べていく。
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