アンラッキーなあたし
「じゃ、さっそくだけれど、さくらちゃん。ここの書類にサインしてくれるかな?」
頭の生理整頓が終わる前に、アユカは、さきほど眺めていた書類の束から一枚引き抜くと、あたしの前に置いた。

こ、これは…。

そこにはやたらと細かい字で成約に関する取り決めがびっしりと書かれており、一番下にサインするスペースがあった。

「さあ、ここにサインするだけで、この指輪はさくらちゃんの物になるんだおぉ」

なるんだおぉ、じゃない!

ようやくやつらの目的を理解したあたしは声を荒げた。

「ちょっと待って!あたし、指輪なんかいりません」

けれど、あたしが怒っても、アユカと瞬はにこにこしている。

「どうしたさくら?怒るなんてさくららしくないぞ」

「そうよ、さくらちゃん。たった百万ですよ?本当は五百万。ううん。それ以上の価値があるんですからぁ」

じゃあ、あんたらが買えばいいではないか。

「なあ、アユカ。それって、五千万のマンションが一千万まで値下げされたのと同じことだよな?」

「さすが、つっちー!頭いい!その通りだよ」

頭いいだと?

「そりゃ、買いだな!」

「でしょう?」

二人はわけのわからない例え話を持ち出し、いかにこの指輪がお買い得かをアピールしてくる。そりゃあ、五千万のマンションが一千万に値下げされたなら、さぞお買い得であろう。しかし、目の前にあるのはメロンソーダ色のナンセンスな指輪で、どこからどう見ても五百万の価値などありゃしない。そんなもんに百万など払えるか!
< 231 / 354 >

この作品をシェア

pagetop