月夜の桜
けれど、すぐにその表情は穏やかな微笑へと変わり彼は愛おしげに桜を見下ろし、髪をなでる。




「何でしょう。姫様」




返事が帰って来ないことなど知っていながら、威月は小さく呟く。



彼の声が届いていたのかいないのか。眠いっている桜はさらに笑みを深くすると、身じろぎをして再び威月の胸に顔をうずめた。



それに苦笑を零して、彼は空を見上げる。



彼の“主”がおわす、空を。





「月白(ツキシロ)様……」




そう言えば、もう何年もあっていない。



天界から消えた桜を探すため、地上へと送られた威月。



自分は主のことを忘れたことがなかったが、果たして主は自分のことを覚えているのだろうか。



僅かな疑問を抱きながら、威月は静かに瞳を伏せた。






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