月夜の桜
「なっ……!」



なんて恥ずかしいことを彼は言うのだろう。


笑顔でさらりと言ってのけられたとんでもない言葉に、桜の白い頬に朱が散った。


男の免疫など全くない桜だ。


ただでさえ、今こうして威月と共にいることにも緊張しているのに、そんなことを言われてしまえば激しく狼狽えてしまう。


威月を視界に入れないよう視線をあちらこちらに彷徨わせ、早く鼓動を刻む心臓を抑えて深呼吸をする。


そんな彼女をにこにこしながら見つめていたふと外に視線をやると、桜の頭を人撫でして立ち上がった。


不思議そうに見上げる桜に、威月は穏やかに微笑む。




「姫様。昼餉の用意をしてまいります」

「え、昼餉……?」




もう、そんな時間? と、首をかしげる桜に彼はこくりと頷く。



「何かご要望はございますか?」

「い、いいえ。特にはありません」

「では、お好きな食べ物や苦手な食べ物は?」

「それも……ないですけど……」



柔和な表情で問うてくる威月に対し、桜は戸惑いを隠せない。


何故、顔を知らぬ自分にそこまでしてくれるのだろう。


真実かどうかは定かではないが。自分の親が彼の主である神だからだろうか。


視線を地面に落とし、桜は考え込む。


けれどどれほど考えたところで、導き出される答えはそれだけで。


ふと、桜は外に視線を移す。


そこには枝に数多と薄紅色の可愛らしい蕾をつけた桜の木があり、彼女の口元は無意識に綻んだ。














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