《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』

さっき、部屋の時計を見たら20時10分だった。だけど、外は既に結構暗いし、街灯の少ないところを通るとしたら危険だ。

彼女は左手の掌を広げ左右に振った。
「いいんです。本当にここまでで」
やけにきっぱり言いきる彼女は、やはり俺が嫌いなのかもしれない。だから、昨日も殴ったんだろうし。

家まで心配して送ってやろうとする俺の何が気に入らないんだ? 優しいとか親切とか思って株が上がる場面じゃないのか?

「ふん。そう言うところが可愛くないんじゃねーの?」
なんとなく腑に落ちなくて思っていた事が、つい口から出ていた。

眉間にしわを寄せる彼女。

しまった。やはり余計な事を言ったようだ。

「…では、ここで」
彼女は明らかにムッとした様子だが、それでも丁寧に頭を下げてから、くるっとドアの方へ向いた。こういう所に彼女の律儀さを感じる。

ドアノブへ手をかけた彼女の左腕を、俺はほぼ反射的にぎゅっと掴んでいた。
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