《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
「なんで、あんたが会社に電話してくる訳?」
周りを見渡しながら、受話器を手で覆い体をかがめて声を小さくした。

悪びれた様子もない三浦の声が聞こえてきた。
「あんたのスマホにかけても〜誰も出ないから」

まるで、私が悪いみたいな言い方をしている。 それに、私のスマホに私以外の誰に出られても困る。


確かに私の場合、スマホはロッカー内のバックの中に入れてあり、仕事中は電源をオフにしてある。それは社会人として当たり前のことだろう。


「……なんか用?」


「用がなきゃかけない」

そりゃそうだ。

まだ、16時半で終業前。仕事中にわざわざ会社までかけてくるんだから用がないとは言わせない。きっと凄い重要な用があるに違いない。

三浦の重要な話を聞いてやることにした。
「で?」

少し沈黙があった。

長すぎる沈黙に通信が途切れたのかと思った。もう少しで「もしもし?」と繋がってるのか確認するところだった。




「俺、好きみたいなんだけど」





「は?」

好きみたいって何が? 頭の中をハテナマークが、あっちやこっちに行き交っていた。


「あんた今、何がって聞こうとしただろ?」
呆れたみたいに、ため息を交えて聞いてくる三浦。


私が言いたいことが良くわかるもんだ。それくらいわかるなら、もう少し言葉を繋げて正しい文章にしてから言って欲しいものだ。


「うん、で?」
こっちは、わからないから聞こうとしてるだけだ。

「で? じゃねーよ。あんただよ、あんた」

「あんた?」
三浦の言っていることを理解するのに相当時間かかっていた。

三浦が突然『好きみたいなんだけど』と言った。何が好きかわからないから追求したら『あんただよ』と言ってきた。

ちょっと……よくわからない。

黙っていると三浦が「もしもし?」と言ってきた。



「もしもし……」
繋がっていることは、伝えたかったので返事をしてみる。

でも、なんだか頭がこんがらがっていて次の言葉がなかなか出てこなかった。




「……俺、あんたが好きなんだよね」



落ち着いた静かなトーンで、はっきりと言われた。

今回は良く聞き取れたし、割と文章もしっかりしていたから「え?」と聞き返すことも出来なかった。
< 98 / 196 >

この作品をシェア

pagetop