柔き肌に睦言を
1
しどけなく開かれた足は、まさにこの世における女神を思わせた。この分だとおそらく天国もそう遠くはあるまい。私はなだらかな曲線に魅入られ、筆を手にしたままその場に立ち尽くした。
女神の視線はまっすぐに、曇ったガラス窓の外に注がれている。緑の蔦が這っているのが見える。
その向こうの空には雲がどんよりとたれ込めている。あと一時間と経たないうちに降り出してくるだろう。
「洗濯物」
ああ、女神の唇からひどく所帯じみた言葉が。
「干してこなくて良かった」
「そうだね」
「しのちゃんは? 洗濯物、大丈夫?」
「今日はさすがにしてない。洗濯大好きだけど、今日はね」
絶対動きません契約を交わした女神は、目だけをこちらに向けて
「わかる。あたしも洗濯大好き」
同意してくれた。
「でもさ、あたしむかし人に洗濯大好きっていったらさ、洗濯って洗濯機に洗濯物と洗剤入れてスイッチ押すだけでしょって言われたよ」
口をとがらせる。
「それとも洗剤とかにこだわるの? とも言われた」
眉をひそめる。
「違うよね。洗濯機に入れて、しんなりして出てきたやつを、お外に干すの。なんてったって干すのが楽しいんじゃん。それを洗濯なんて入れて回したやつを乾かすだけ、みたいにバカにしてさ」
頬をふくらませる。
そろそろ契約がやぶられてしまいそうなので、私はぼーっと突っ立っているのをやめて、まじめにカンバスに向かった。
女神のおしゃべりはおわらない。
「しのちゃんちって乾燥機付き? うち付いてないんだけどさ、どう? ちゃんと乾く? 服とか傷むって聞いたんだけど」
「傷むかどうかわからないけど、すごいシワになるよ。イッセイプリーツかってくらいのシワだよ」
「え、ほんと」
「ああイッセイさんこうやってプリーツ畳んでたんだねって納得できるよ」
「バカ」
笑った拍子に腰回りを覆っていた布が少しばかり、ずれた。思わず目で追わずにはいられない。女神はそんな私の様子に気づき、言い訳をする。
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