柔き肌に睦言を
すべて脱ぎ終わった睦美は、素肌に布を巻き付けるとソファに横たわった。
「こんな感じでいいのかな。ヌードってこんなイメージ」
「うんいいよ。すごくモデルっぽい」
ソファは飾り気のない木枠に座面と背もたれのみキャンバス地を張った二人掛け。お世辞にも寝心地良いとは言えないだろう。布は白いウールジョーゼットで、こちらは、綿ブロード等より幾分肌触りが良く暖かだろう。
「暖房入れてるけど、寒くないかな」
「大丈夫だよ」
「上半身は、その、出してもらってもいいかな」
「あっごめん。そうだよね。でもさ、一肌脱ぐとは言ったけど、ほんとに脱ぐことになるとは」
睦美が胸を開く。私は初めて正面から直視するふくらみにクラクラせずにいられなかった。大きなため息が出て、思わず左手で口を押さえる。
「どうしたの」
怪訝そうにきかれて、あわてて指示を出す。
「もう少し上体起こしてもらえるかな。そう、目線はあの窓の方へ」
美しすぎる。まさに女神。私はなんて幸せなのだろう。この白い画面に再び女神を閉じ込めることが許されたのだ。しかも十三年前のあの時とは違う。今回は神々しい肉体を隅々まで子細に観察することができるのだ。
「胸、ちょっとしぼんだんだ。おなかに妊娠線もできたし」
残念そうに言う睦美は、結婚と出産を経験していた。子供は女の子で五歳。同窓会の日にすでに聞いていたことだ。お互いにいい歳なので驚きもしない。そして相手は修二くんでは無いとのことだった。
「そんなこと、すごくきれいだよ。出産、大変だった?」
「大変大変。死ぬかと思ったよ」
私には今のところ縁のないことなので、どうにも想像つきかねた。
「お子さんは幼稚園に?」
「うん。今日は延長してもらったから、三時過ぎにここを出れば大丈夫だから」
「ありがとう。午前中にデッサン終わらせるからね。午後から彩色予定です」
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