隣に座っていいですか?
ジュースを桜ちゃんの元に置くと

「お父さんものみますか?」ってさくらちゃんが言い、父親は「うん」って返事する。

違うだろ。

そこは違うだろ!

見かねてお父さんがビールを出してきた。

「仕方ないなー引っ越し祝いだ」
嫌な顔しながら男に注ぐと、男は大喜びで顔をほころばす。

「それで、おたくはどなた?」

母親の冷たい声にビクリと男は動きを止め、背筋を伸ばしてコップを下ろし私達に顔を向けた。

あら?
けっこうイケメン?

甘い顔してる
目が優しそうで鼻筋が通ってて
唇は引き締まっていて

顔はいいかも。

「隣りに越してきました。田辺 紀之(たなべ のりゆき)と申します。田辺 桜の父親です」

遅すぎるご挨拶だ。

「ご職業は?」
お母さんの尋問が始まるよー。

「ドイツ文学の翻訳家です」

そこで
ほぉーっとみんなで呟く。

賢い人に弱い家族。

「あの豪邸に住むぐらいだから、翻訳家って儲かるんですね」
お母さんが感心すると

「いえ、ゼンゼン稼いでないです」
サラリと返事して
さくらちゃんと「ねー」って顔を見合わせて声を揃えてた。

え?
儲かってないの?
金持ちじゃないの?

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