隣に座っていいですか?
「だってあんなゴージャスな家を借りるぐらいだから、お金がないと……その……」
そんな失礼な言葉を出すけれど
田辺さんは嫌な顔ひとつもせず

「ひとめ惚れでした」
そう答える。

「さくらの木がありました」
桜ちゃんの嬉しそうな補足。

「お母さんが大すきなお花です」

お花……木だけど
まぁ桜ちゃんが言うなら花でいいか。

そうかー
お母さんが桜の木が好きだから借りたのかー。貧乏だけど借りたのかー……って、よく奥さん借りたな。度胸あるなー。

「幼稚園も学校も近いし」

うん
確かに環境はいいと思うけど

大丈夫か?
心配しつつ
色々話をしていたら

桜ちゃんが大きなあくび

あ?
幼稚園児は眠いよね。
じっと見てると田辺さんは「ごちそうさまでした」何度も頭を下げて席を立ちワタワタと桜ちゃんを抱っこして帰り支度。

「ごちそうさまでした」
桜ちゃんも抱っこされながら、しっかりご挨拶。

そして
「おじさんのつくるおそば、とってもおいしかったです」

泣かせる事を言う。
頑固親父もホロリとするわ。

逃げるように田辺親子は店を出て

私達家族は
ある重要な事に気付いてしまった。

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