隣に座っていいですか?



ざわついた会場の一番後ろ
目まいがしそうなくらい緊張した私の前に、まずは背の高い白髪交じりの紳士と高そうなスーツを着こなしたご婦人が現れた。

「この方が?」
紳士の冷静な声が彼に似ている。

「郁美さん。僕の両親です」
静かに紹介された。

そうなのかっ!
慌てて頭を下げて名前を名乗りご挨拶。

「桜をよろしくお願いします」
紳士はそれだけ言い
スッと先に歩いて行ってしまった。

それだけ?

「ごめんなさいね。愛想が無くて」
作られたような笑顔を見せ
彼のお母さんが言う。

「いいえ……あの……」

「家の事業も継がず、好き勝手ばかりしている息子です。お金に困ったらいつでもいらっしゃい」

堂々と言われた。

普通なら『はぁ?』って文句のひとつも言う所なんだけど、あまりにもその態度と言葉がお似合いで、あぁ本当のセレブなのねと、変に感心している私。

嫌な顔をする彼の背中を軽くつねる。

「ありがとうございます」
素直に頭を下げ
ご両親を見送った。

「すいません。嫌な思いをさせて」
最高に嫌な顔をして彼が言うけど

「お金は大切だよ。困った事があったら、頼る所があるってありがたい話でしょう」
それが現実。

「絶対頼りたくない」
本気で嫌な顔。

まぁ
色々あったのね。
凡人にはわかんないけど「無事報告終わってよかった」ちょっと背を伸ばして彼に告げると苦笑い。

「郁美さんが深く考えない人でよかった」

「どーゆー意味?」

「褒めてるつもりですよ」

「そうなの?」

わかりずらー。

そんな会話をしていたら
もう一組
私達の前に現れた紳士とご婦人

ご婦人はワインカラーのスーツを着ていて、桜ちゃんの踊りを見てハンカチで目を押さえていた人だった。

予感的中だった?
< 183 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop