隣に座っていいですか?
「田辺さん」

「はい」

「あなた父親でしょう。しっかりしなさい」
一喝して立ち上がると
田辺さんは「はい」と返事だけ大きく背筋を伸ばす。

大丈夫か?

桜ちゃんにさよならして
帰ろうとすると台所が目に付き
使い込んだホットプレートが私を見送る。

毎日
ホットプレートなのだろうか。

バタバタと小さな足音が近寄り
桜ちゃんが私の手を握る。

「お父さんと毎日何を食べてるの?」
心配で聞くと

「お父さんは、やきそばとおこのみやきと……えっとやきうどんと、チャーハンがとくいです」

あぁ
想像通り。

「パンもたべます。さくらはパンもすきです。なっとうさんでごはんもすきです。いくちゃんのおうちのおそばもだいすきです」

ジーンとくるわ。

「桜ちゃんカレーは好き?」
小さな手を握り直し問いかけると、丸い目をもっと丸くする。

「だいすきです」

「じゃぁ後から持ってきてあげる」

「わーい!お父さんいくちゃんがカレーをもってきてくれるって!」

飛び跳ねながら
桜ちゃんは田辺さんの元に行き

「わーい」って
田辺さんも大喜び。


どうにかして

桜ちゃんにだけ
食べさせる方法は

ないものでしょうかね。

< 26 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop