先生と教官室3~沢山の初めて~
「すみません、少しいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
わざわざ俺に断りを入れてから電話に出る姿を見て、また冨田先生の丁寧さや大人な雰囲気を感じる。
人としての基本が当たり前にできるって、こんなにも格好いいんだな…うん、俺も見習おう。
激しく振動している携帯の画面に触れ、冨田先生は少し急ぐようにして電話にでた。
「もしもし麻椿?どうかしたのか?」
『あ、お父さん!!まだお仕事中?』
「ん?永愛か?仕事は終わったけど…。」
『そっか、お疲れ様!!』
「あぁ、ありがとう。」
やべぇ、なんだこの幸せな会話は。
静かな空間からか、冨田先生の電話の音量設定が大きいからか、電話の会話がほとんど耳へと入ってくる。
どうやら電話の相手は奥さんではなく、先ほど話していた中学生の長女さんのようだ。
まだ幼くて高い声が静かな空間によく響いている。
『あのね、お父さん。今日お母さんが帰りにケーキを買ってきてくれたの。それで、明日は休日だし遅くなっても大丈夫だから瞬輝と起きて待っててもいい?』
「え?」
『最近お父さん忙しくて晩御飯一緒に食べれないことが多いでしょ?だから、お父さんが疲れてなかったら、ケーキ…一緒に食べたいなって…思って……。』