Z 0 0 Ⅱ

「うーん……」
「……うん?」


言ったはずだったのだが、何者かに邪魔されて、口からは拍子抜けしたような声が出ただけだった。

茅野は一瞬、自分の口が開きっぱなしになっていて、うっかり声が出てしまったのかと思った。
だが薄めの唇は間違いなく閉じたままだったし、「ふうん」ならまだしも「うーん」なんて難しげな声を出す場面でもない。

またなにか妙な動物でも現れたのかと、警戒しながら辺りを見回す。
だが周りには葉の生い茂った木が不規則に立ち並び、それほど大きくない岩山があるだけだ。


「……気のせい?」
「どうした? 茅野」
「あ、いえ」


周囲に気を取られた様子の茅野に、ラビが声をかける。
足元を見ても、茅野に踏まれた苔の絨毯が突然起き上がって動き出す、なんてことはなかった。


「今、うーんって」
「え? なんて?」
「うーん……」
「だからこんな……、っ!」


今度は明らかに頭上から落ちてきた声に、茅野は驚いて木々を見上げた。
なにかあったらすぐに逃げられるように、足に力を入れる。
こんもりと茂った葉の隙間からぎょろ目が覗いていないか、枝の下に長い尻尾が垂れていないか。

< 21 / 35 >

この作品をシェア

pagetop