Z 0 0 Ⅱ

「茅野?」
「ら、ラビさん、なんですかこれ」
「うー……ん」


結局開けっ放しになってしまった唇からは、小さく「ええええ……」という声が漏れている。
上を見ながらぐるぐると首を捻っていたせいでバランスを崩してしまって、後ろの岩山に寄りかかる。
すると、ラビが真顔で言った。


「その、うーん、っていうのは」
「は、はい?」
「そいつが言ってる」
「!!?」


ラビが指差した先が、自分が凭れかかっている岩山だとわかった瞬間に、茅野は飛び退いた。
ラビに飛び付く形になってしまったが、ラビはそのまま茅野を支えて、岩山に向き直らせ、肩に手を置く。
「ほら」という低い声に誘導されて、顔を上げる。

顔があった。

見上げるほど高い岩山の頂上で、ゆっくりと振り返った顔が、茅野とラビを見下ろしていた。
マスクみたいに縁取られた両目。
体に対して小さめの頭、平坦な顔立ち。

ゆっくりと腰が上がった。
茅野が体勢を崩して凭れた、岩だと思っていたものは、“それ”の背中だったのだ。
中腰になると、決して背の低くない木々の間から、頭一つが飛び出る。

思いの外太く鋭い爪。
振り返って、長い体を折り畳んでしゃがみ直したそれがなんなのか、茅野は知っていた。

< 22 / 35 >

この作品をシェア

pagetop