EVER BLUE
翌朝、折り重なるようにして眠っていた四人の中で、一番初めに目を覚ましたのは聖奈だった。
自分を抱え込んで眠る晴人と、龍二を抱え込んで眠る千彩。その違和感に首を傾げ、そっと晴人の腕の中から抜け出した。
「えっと、今日は…」
よいしょと背延びをして晴人の手帳を取り、聖奈はスケジュールを確認した。
元々手帳などつける習慣の無かった晴人だけれど、聖奈が小学生になってからきっちりと日々の予定を書き込むようになった。勿論、家で自分の帰りを待つ二人用に。
「ん?あれれ?」
黒く塗り潰された文字をなぞりながら、聖奈は「おや?」っと首を傾げる。昨日確認した時には、確かにそこに文字が並んでいた。それで千彩が「日曜日なのにー!」と膨れていたから間違い無い。けれど、今はどうしたことか黒く塗りつぶされている。自分が寝ている間に何かあったのだろうか…と、聖奈は手帳を手に晴人を揺すり起こした。
「はる、はる、起きてください」
「んー」
「今日はお休みにしたんですか?」
「んー」
聖奈の言葉に晴人は一度グッと眉間に皺を寄せ、ゆっくりと薄く双眸を開いた。
「おはよ、セナ」
「おはようございます」
長い前髪を掻き上げながら優しげに笑う晴人は、聖奈の自慢の父親だ。
「お休みにしたんですか?」
「んー?昨日ちぃが怒ってたからな」
「ちーちゃんのワガママのためにお休みにしたんですか?」
「んー…もうちょっと寝る」
ごろりと背を向けて千彩に手を伸ばした晴人に、聖奈は大きな息を吐いてガックリと肩を落とす。
聖奈にとって、有名カメラマンで容姿も良く優しい晴人は「自慢の父親」なのだけれど、こうゆう部分はいただけないと常日頃から思っている。千彩の一言で、全ての予定を変更してしまうのだ。
「大人なのに…」
フルフルと首を振る聖奈は、いくら察しが良いと言えどまだ小学4年生の子供だ。所謂「大人の事情」など知る由も無く、晴人を「重度の過保護」だと思っていることは致し方ないかもしれない。
パタンと手帳を閉じ、聖奈は隣で眠る千彩を覗き込んだ。スヤスヤと寝息を立てる千彩の腕の中では、同じように龍二が身動ぎ一つせず寝入っている。
「セナは…はるとちーちゃんの子供で良かったです」
ボソリ、と聖奈が洩らす。
友達の家に遊びに行くために近道に通った公園に、少年は居た。ベンチの裏で膝を抱え、生きているか死んでいるかも聖奈にはわからなかった。
「おなか…すいた」
弱々しいその声に思わず手を差し出したものの、自分ではどうにか出来るはずがなくて。千彩におやつを出してもらっているうちに晴人が戻ってくるだろう。と、無理やりに手を引いて連れ帰ったのが昨日のこと。詳しい事情はわからないけれど、龍二が「捨てられたのだろう」ということくらいは予想がつく。そして、昨日の晴人の口ぶりからして、おそらく龍二を捨てただろう父親が晴人の知り合いだろうということも。
幼いながらに、聖奈は「難しい家庭事情」とやらを知っていた。
母親である千彩が親に捨てられ、それを育てたのがお兄様。学校にも行けず、当たり前のことが当たり前に出来なかった千彩。そんな千彩と出会い、守り、愛し続けてきた晴人。難しい事情はあれど、聖奈にとって二人は自慢の両親だ。
「学校がお休みで良かったですね、ちーちゃん」
気持ち良さそうに眠っている千彩は、まだ暫くは目を覚まさないだろう。
にこにこと笑いながら洗面所へ顔を洗いに行く聖奈は、四人分の朝食を揃える気でいる。簡単なものしか用意出来ないけれど、有るのと無いのでは違うだろう。夢心地の三人を振り返り、小さな「ママ」がクスッと笑い声を零した。
自分を抱え込んで眠る晴人と、龍二を抱え込んで眠る千彩。その違和感に首を傾げ、そっと晴人の腕の中から抜け出した。
「えっと、今日は…」
よいしょと背延びをして晴人の手帳を取り、聖奈はスケジュールを確認した。
元々手帳などつける習慣の無かった晴人だけれど、聖奈が小学生になってからきっちりと日々の予定を書き込むようになった。勿論、家で自分の帰りを待つ二人用に。
「ん?あれれ?」
黒く塗り潰された文字をなぞりながら、聖奈は「おや?」っと首を傾げる。昨日確認した時には、確かにそこに文字が並んでいた。それで千彩が「日曜日なのにー!」と膨れていたから間違い無い。けれど、今はどうしたことか黒く塗りつぶされている。自分が寝ている間に何かあったのだろうか…と、聖奈は手帳を手に晴人を揺すり起こした。
「はる、はる、起きてください」
「んー」
「今日はお休みにしたんですか?」
「んー」
聖奈の言葉に晴人は一度グッと眉間に皺を寄せ、ゆっくりと薄く双眸を開いた。
「おはよ、セナ」
「おはようございます」
長い前髪を掻き上げながら優しげに笑う晴人は、聖奈の自慢の父親だ。
「お休みにしたんですか?」
「んー?昨日ちぃが怒ってたからな」
「ちーちゃんのワガママのためにお休みにしたんですか?」
「んー…もうちょっと寝る」
ごろりと背を向けて千彩に手を伸ばした晴人に、聖奈は大きな息を吐いてガックリと肩を落とす。
聖奈にとって、有名カメラマンで容姿も良く優しい晴人は「自慢の父親」なのだけれど、こうゆう部分はいただけないと常日頃から思っている。千彩の一言で、全ての予定を変更してしまうのだ。
「大人なのに…」
フルフルと首を振る聖奈は、いくら察しが良いと言えどまだ小学4年生の子供だ。所謂「大人の事情」など知る由も無く、晴人を「重度の過保護」だと思っていることは致し方ないかもしれない。
パタンと手帳を閉じ、聖奈は隣で眠る千彩を覗き込んだ。スヤスヤと寝息を立てる千彩の腕の中では、同じように龍二が身動ぎ一つせず寝入っている。
「セナは…はるとちーちゃんの子供で良かったです」
ボソリ、と聖奈が洩らす。
友達の家に遊びに行くために近道に通った公園に、少年は居た。ベンチの裏で膝を抱え、生きているか死んでいるかも聖奈にはわからなかった。
「おなか…すいた」
弱々しいその声に思わず手を差し出したものの、自分ではどうにか出来るはずがなくて。千彩におやつを出してもらっているうちに晴人が戻ってくるだろう。と、無理やりに手を引いて連れ帰ったのが昨日のこと。詳しい事情はわからないけれど、龍二が「捨てられたのだろう」ということくらいは予想がつく。そして、昨日の晴人の口ぶりからして、おそらく龍二を捨てただろう父親が晴人の知り合いだろうということも。
幼いながらに、聖奈は「難しい家庭事情」とやらを知っていた。
母親である千彩が親に捨てられ、それを育てたのがお兄様。学校にも行けず、当たり前のことが当たり前に出来なかった千彩。そんな千彩と出会い、守り、愛し続けてきた晴人。難しい事情はあれど、聖奈にとって二人は自慢の両親だ。
「学校がお休みで良かったですね、ちーちゃん」
気持ち良さそうに眠っている千彩は、まだ暫くは目を覚まさないだろう。
にこにこと笑いながら洗面所へ顔を洗いに行く聖奈は、四人分の朝食を揃える気でいる。簡単なものしか用意出来ないけれど、有るのと無いのでは違うだろう。夢心地の三人を振り返り、小さな「ママ」がクスッと笑い声を零した。