EVER BLUE
聖奈の作った朝食をたいらげ、四人は向かい合って手を合わせる。「ごちそうさまー!」と一番に元気良く言ったのは、意外なことに龍二だった。そして龍二はそのまま隣に座る晴人を見上げ、グッと腕を引いた。
「とーちゃん!」
「んー?」
「俺も仕事する!」
「仕事?」
首を傾げる晴人に何か言いたげな龍二だけれど、どうやら説明の言葉が見当たらないらしい。「助けてくれ!」と言わんばかりに龍二から向けられた視線に、聖奈はふぅっと息を吐いてすっかり空になってしまった皿を差し出した。
「りゅーちゃんはこれを流しに運んでください」
「おう!」
「セナと一緒にお片付けをしましょう」
「おう!」
そんな子供達のやり取りに、「ちさもー!」と参加しようとする大きな子供が一人。それを笑顔で制し、晴人は千彩をソファへと促した。
「なぁ、ちぃ」
「んー?」
「お前さ、初めて恵介に会った日の朝のこと覚えてるか?」
「んー…たぶん」
頼りない答えに苦笑いを零し、晴人は千彩の肩を抱いた。
千彩を自分の住むマンションへと連れ帰って共に眠り、初めて朝食を作ってやった日。あの日、食事の済んだ食器をキッチンへ運びながら千彩は言った。
「食べさせてもらったから、ちさが片付ける」
そんな思いが今の龍二にもある。と教えてやると、千彩の表情は一気に曇った。
「りゅーちゃん、寂しいかな」
「どうやろな」
「ちさ、寂しかった」
「俺がおったのに?」
コツンと額を合わせ、晴人はじっと千彩の瞳を見つめる。
結婚して10年。11も年下の千彩のやることは、たとえどんなワガママだろうと可愛い。出産を機に、より一層甘やかすようになったのも事実だ。
自分が千彩を構うので、聖奈には寂しい思いをさせているかもしれない。それもわかってはいるのだけれど。
「俺はいつだって千彩の晴人やで」
どうしても晴人の思考の中心には千彩がいて。それを失うなど考えただけで恐ろしいし、もう二度とあんな思いはしたくない。
「ずっと一緒や。な?」
「うん」
千彩の長い髪を梳きながら、晴人はうんと優しい声音で言葉を紡ぐ。
幼い頃に得られたはずの愛情を、千彩は得られずに育った。だから、それを自分の手で埋めてやりたい。埋めて、溢れるくらい満たしてやりたい。その一心で晴人は千彩に愛情を注いできた。
「はる、お片付けが終わったので、りゅーちゃんとお外に行ってきていいですか?」
「おぉ、かまへんで」
相変わらず仲良しだ。と、寄り添う両親を見て聖奈は思う。
聖奈の目から見ても、晴人の千彩に対する想いはどこか異常で。千彩がそれを当たり前のように受け入れているから特に口を挟むことはしないけれど、自分の両親が友達の両親とは違うことは聖奈にも十分わかっていた。
「11時に戻ります」
「おぉ。ほな、それから皆で買い物行こか」
「お買い物ですか?」
「龍二の服もまだ要るし、靴も要るやろ?ついでにファミレス行くかー」
「やったー!」
「ファミレス」という言葉に逸早く反応したのは、やはり千彩だった。言葉には出さないけれど、龍二の瞳も千彩と同じようにキラキラと輝いている。
「いっぱい遊んで腹ぺこにしてこい」
「おう!」
元気良く返事をする龍二の頭をポンッと撫で、晴人は聖奈の頭に手を伸ばした。
「11時に迎えに行くわ」
「はい」
「暑いから二人とも帽子被って行けよ」
「はい」
「おう!」
6年生にしては小さい方かもしれないけれど、如何せん並んでいるのが背丈の小さな聖奈だ。立派に兄妹に見える。と、晴人は満足げに笑って二人を見送った。