キミが残したもの

家族

私は平井飛鳥。
飛ぶ鳥って書いて、あすか。
お母さんが、「鳥のように自由で元気な女の子になるように」って願ってつけられた名前。
でも残念ながら私はそんな女の子とは正反対。
重い病気でずっと入院している私なんかより・・・妹に付けてあげれば良かったのに。

妹の名前は、美朱。
中3の元気な女の子。
私は一つ上の高1。
・・・高校には行っていないけど。

ーコンコン

ノックの音。

「はい」

返事をして時計を見る。
15:35。
検査の時間だ。
私は生まれつき、心臓病だった。
だから毎日検査を受けなきゃいけなかった。

「飛鳥ちゃん、調子はどう?」

にっこりと明るく笑う、女性の医師。
安藤麻実先生。
誰でも心を許してしまえる、そんな人。
私も微笑み、答える。

「バッチリ!今日のお昼ご飯がおいしかったからかな」

明るく元気に笑って。
麻実先生は、笑顔を崩さずに私の腕をつないでいる点滴を変える。
その点滴を変えながら言う。

「もうお母さんたち来るんじゃないの?
いっつも4時くらいに来るでしょう?」

時計は、15:55。
本当だ、と言いながらふと妹を思い出す。
受験で会いにこれなくなっていた美朱。
明るくて、バカみたいに大食いで。
でも記憶力は抜群で。
いっつも私を心配してくれた。
『姉ちゃん』って何度も呼ぶ声。

妹だけが・・・心を許せる存在だった。
歳が近いからかもしれない。
血がつながっているからかもしれない。
でも・・・理由はなんであれ、美朱だけは心から信用していた。

「じゃあ、行くわね」
「あ、はーい」

変え終わった麻実先生は陽気に笑って部屋を出て行った。
窓から見える雪景色。
きっと美朱はラストスパートで猛勉強しているだろうな、なんて思いながら。

ーコンコン!

再びノックがかかる。
さっきより強めのノック。
誰だろう、と思いながら返事をする。

ガラッとドアが開いて姿を見せたのは・・・。
ー美朱だった。
前と変わらずに人懐っこい笑顔で。

「姉ちゃん!」
「美朱!」

嬉しそうな声を上げる美朱とは違って、私は驚いてしまった。
受験中の、しかも一番忙しい時期にやって来てくれるなんて思ってなかったから。
美朱の後ろには、お母さんとお父さんもいる。
二人とも、いつもみたいに微笑んで。

お母さんが意地悪な笑顔を見せて言った。

「びっくりした?
美朱、どうしても飛鳥に会いたいからって来ちゃったのよ」

その言葉に美朱を見ると、えへへ、と嬉しそうに笑っていた。
もう中3なのに、小学生みたいな無邪気な笑顔を見せる。
ふふっと私も笑って口を開いた。

「お父さん、仕事大丈夫なの?」
「ああ、飛鳥、父さんな・・・昇進したんだ!」

どうだ!とばかりに言う父に、素直にお祝いの言葉を言う。

「すごいじゃん!おめでとう!」

みんなが笑顔でいる、幸せな家庭。
思ってはいけないけれど、ふと思う。
私が病気じゃなかったら・・・って。
そしたら水族館にも遊園地にも行けたのに。
学校に行って友達と笑いあうことも出来たのに。

そんな私を見て、お母さんが言った。

「飛鳥、お母さんね・・・」

その先を言わないお母さん。
悲しげに微笑んでうつむいてしまった。
気まずい沈黙が流れる中、美朱があっと声を上げた。
ポケットから何かを取り出して、満面の笑みで私に差し出す。

「姉ちゃん、これプレゼント!」
「わぁ・・・」

小さいくまのストラップ。
花束を抱きしめてるくま。
私はそれを大事に握り締めて、言った。

「ありがとう、美朱」
「うん!早く良くなってね?」

それから二言三言はなして、帰っていった。

一人になった病室から見える雪景色。
外は寒いんだろうけど、室内は暖かい。
でも・・・凍えるくらい寒いのは何でだろう。

・・・なんでだろう・・・?

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